大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所宮崎支部 昭和27年(う)223号 判決

よつて原審で適法に証拠調をした各証拠と当審で調査した結果を綜合すると被告人が昭和二十六年一月十七日鹿児島市下龍尾町三四番地今給黎久盛方で同人と自己所有(形式上の名義人は吉原カメ)の同市草牟田町四四八四番宅地三七坪七合八勺と同地上木造二階建平木葺一六坪の住家一棟を代金十三万円で売買契約をなし即時同所で同人から金三万円の交付を受けた外同年三月二十三日迄の間数回に亘り合計金十万円を右代金名義で自ら又は藤共利秋を介して交付を受けたことは明かである。しかして原審並びに当審証人米丸元彦同入船栄吉の証言と被告人の司法警察員に対する第一回乃至第三回供述調書を綜合すると被告人は予て米丸元彦を介して他から金借しこれを資金としてミシンの販売並びに修理業を営んでいたところその事業に失敗し昭和二十五年十二月末頃には自己の生計にすら事欠く位に困窮したので又もや米丸を介して同人の勤務先である下伊敷農業協同組合に金融方を依頼したのであるが被告人の前掲債務についても米丸は債務保証をしていた関係から同年十二月二十七日頃右下伊敷農業協同組合で被告人と米丸の間で右の保証債務については米丸において自ら支払の責任を負担することとしその債務と新に米丸名義で下伊敷村農業協同組合から借受ける金一万五千円とを併せて債権額を金十六万五千円と改めて米丸と被告人との間で貸借契約となし右の債権につき被告人所有の前掲宅地建物につき抵当権設定契約をなし同時にその登記手続をなすために被告人から米丸に対して前記建物の建築許可書並びに登記に必要な印鑑、印鑑証明書等を交付したことが認められる。しかるに原審証人今給黎久盛、同藤共利秋の証言によれば昭和二十六年一月十七日被告人は藤井利秋を介して右宅地建物を今給黎久盛に売渡契約をなすに際して「この家は今度新しく造つたばかりで宅地建物とも抵当権の設定はしてなく又そのような手続中のものでもない」と前記米丸との契約の事実を秘して虚構の言を弄して今給黎等をしてそのように誤信させたことが認められる。しかして被告人と今給黎との間に売買契約が成立し被告人がその代金名義で金十三万円の交付を受けたことは前認定のとおりであつて、若し被告人が右売買に際して米丸との間の抵当権設定契約の存することを明らかにしたとすれば今給黎が該宅地建物を買受ける契約をなすべき筈でなかつたことは同人の前記証言により窺知できるのであるから被告人が同人から右代金名義で交付を受けた金十三万円は結局前掲欺罔行為によつて騙取したものと断ぜざるを得ない。しかるに原判決においては右の事実を認むるに足る証拠がないと認定したことは事実を誤認したものであり右の誤認は判決に影響を及ぼすことは勿論であるから論旨は理由があり原判決は破棄を免れない。

(後略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!